RB Leipzig 分析チーム責任者 Fabian Friedrich〔インタビュー〕(2022/12/28)

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【原文:ドイツ語】

インタビュアー:仕事内容を簡単に教えてください。
Fabian Friedrich:数名のアナリストからなる分析チームを管理している。チーム内では対戦相手分析、データ分析、自己分析など担当する分野が分かれている。自分はそれぞれのテーマのコーディネートをしているが、自己分析をメインにやっている。つまり、自分たちの試合を後から振り返って、自分たちのパフォーマンスを分析する。何がうまくいったのか、何をすればもっと良くなるのか。チームやコーチングスタッフが、個人とチームの戦術的パフォーマンスを向上させられるようにすることを目的としている。

インタビュアー:1つの試合を分析する時にどれくらい見るのですか?
Friedrich:一度見るが、その後に自分に関係のある全てのアクションを時には数回に分けてゆっくり見る。得点のチャンスやゴールシーンだけではない。90分の試合でも、全ての分析を終えるまでに3時間以上かかることもある。もちろん、試合の流れや対戦相手にも左右される。リーグ戦やCLで非常に優れたチームと戦う試合はカップ戦で4部リーグのチームと戦う試合よりも内容が濃くなる。分析に時間はかかるが、そこから多くのことを学び、将来に繋げることができる。

インタビュアー:RBでは何人くらいが分析に携わっているのでしょうか?
Friedrich:プロレベルでは現在最大で4人のアナリストがいる。ただ、コーチ陣も分析に多くの時間を割いている。また、育成部門ではC-Junioren(U15)以上のチームにアナリストがいることは自分たちのクラブでは当たり前になっている。

インタビュアー:アナリストが対戦相手の準備する時に、何試合ぐらい分析するのですか?
Friedrich:相手によって異なってくる。平均すると4試合から6試合だろうか。ただ、それ以上のこともある。

インタビュアー:1試合に3~4時間かかるのですか?
Friedrich:そんなことはない。なぜなら、全てがパターン認識のためだからだ。ある状況下で相手がどのような振る舞いをするのか、ボールを持っている時と持っていない時での典型的な振る舞いは何なのか。試合の各局面で必要な情報が揃ったら、それをMarco (Rose)やコーチングチームに映像を用いながら説明して、一緒にマッチプランを考えていく。

インタビュアー:シーズン後半戦もシーズン前半戦と同じような分析量が必要なのでしょうか?
Friedrich:相手の監督が同じで、既に1度対戦を経験している場合は役に立つこともある。そうでなければ、ゼロからのスタートとなり、彼が既にそのチームで数試合指揮していることを願うしかない。そうでもない場合、過去に他のチームでどのようにやってきたかを調べる必要がある。そこからも一定の結論を導き出すことができる。ほとんどの監督は、どこのチームでもある種の考え方や内容を体現している。

インタビュアー:分析によって何ができるのでしょうか?
Friedrich:分析はパフォーマンスを向上させ、偶然の要素を減らし、良い決断を下すことに役立つ。成功する可能性を高めてくれるものだ。

インタビュアー:分析ではできないことは何ですか?
Friedrich:自分たちは多くのことを分析し、影響を与えることができるが、結局のところ、ミスを犯すのはピッチ内外の人間であり、色々なところで幸運や不運に見舞われるものだ。偶然という要素は常に存在している。それが良いところでもあり、エキサイティングなところでもある。

インタビュアー:試合中にはリアルタイムで分析もされていますね。実際にどのようなものなのでしょうか?
Friedrich:試合中、自分はベンチでノートパソコンを持ち、スタンドの分析スペースにいる同僚と無線で連絡を取っている。自分の画面では試合を俯瞰的に見ることができる。何かあればその場面をもう一度見て、必要なら保存しておくことができる。特に試合の最初の35分は重要で、比較的ストレスのかかる時間帯だ。相手の出方を見ながら、自分たちのマッチプランがうまくいくかどうか、全てがイメージ通りにいくかどうかを確認する。その間も、ベンチにいるコーチやスタンドにいるアナリストと話をして、最も重要な情報をフィルターにかけるようにしている。そして、ハーフタイムの分析に適したシーンを選択する。相手が急に戦術を変えてきたりすると、その対応に追われることになる。

インタビュアー:やりがいがありそうですね。
Friedrich:リアルタイムの分析は自分にとって「至高の分野」で、非常に楽しいものだ。でも、楽しむためにはある程度の経験も必要となる。相手の分析と自己分析は同時に進行しているし、しかもそれはストレスのかかる状況だ。冷静になって、解決策を考えなければいけない。当然、ストレスの度合いは試合の経過に左右される。ハーフタイムの5分前になると自分は監督のロッカールームに入り、全ての準備をする。そして、Marcoが到着したら、最大で4つの重要なシーンを見せ、何ができるかを簡単に話す。その後にロッカールームで(選手たちに)何を見せるか、どんな対策を講じるかは、もちろん最終的には監督が決めることだ。

インタビュアー:選手たちは45分間、ピッチの上で全力を尽くし、アドレナリン全開の状態です。そして、ロッカールームに戻ると「話を聞け」と言われます。その状況で話をすることは本当に効果があるのでしょうか?
Friedrich:上手くいっている。映像を見ながら説明をすることから、自分たちから何を求められているのかを、選手たちは理解しやすくなる。また、自分たちが話している対象はプロのサッカー選手たちだ。彼らはほぼ毎日映像を用いた分析に取り組んでいるし、45分後に完全に疲れ果てて目の前に座っているわけでもない。5分もすれば、再び理解できる状態になっている。それでも、アマチュアの監督と同じように、ハーフタイムには最も必要なことだけを伝え、振る舞いに関しては明確な指示を与える。

インタビュアー:相手の分析が事前に外れることはよくあることですか?
Friedrich:特にトップレベルのチームは自分たちの強みに頼り、自分たちの試合をしようとするから予想がつくことが多い。ただ、自分たちが有利な状況で相手が突然、普段とは全く異なる行動をとるという試合も定期的にある。そのような場合、過去20試合で一度もそんなことをしたことがないのに、いきなり5バックを敷く相手と対戦することになる。あるいは、いつもはプレーアイデアを見つけ出そうとしていた相手が全てのボールを高く、遠くへ飛ばしてくることもある。それはある程度までしか予測できない。ただ、自分たちも毎試合、事前にプランBを考えているし、状況の変化に対して選手たちが自分たちで正しく反応することもよくある。幸い、チーム内には非常に高いサッカーインテリジェンスを持った選手もいる。

インタビュアー:分析によって、試合を機能させないようにすることはできるのでしょうか?
Friedrich:もちろん。機能するかしないかは常に微妙なラインだ。特にマッチプランを練る時はあらゆる事態を想定し、全てに対応できるように準備をする。ただ、プランがうまくいかないこともある。それでも、選手たちの強度や集中、個々の能力がピッチ上でそれを補うため、ほとんど目立たない。また、理論に流されすぎていることに気づいたら、コーチングチームではお互いにブレーキをかけるようにしている。Marcoは戦術に関しては細部に非常にこだわるが、選手たちのやりたいようにプレーさせる時を見極めるセンスも持っている。このバランスが非常に重要となる。

インタビュアー:サッカーはチェスのようなものですか?
Friedrich:ある程度レベルであれば比較することはできる。自分たちも相手も、選手の配置を何度も調整し、そのたびに試合のバランスが変化していくような試合を見たことがある。自分たちが動いて、相手が反応して、何かが起こる。

インタビュアー:分析がサッカーの美しさを奪うのでしょうか?
Friedrich:その真逆で、より高いレベル、つまりより美しいレベルに引き上げてくれると思っている。でも、それは考え方の問題かもしれない。

インタビュアー:そのような見方でサッカーを見ることはできるのでしょうか?
Friedrich:自分はそんなに自由な時間があるわけではないから、サッカーを見ることはほとんどない。家族や友人と過ごす方が好きなんだ。仕事モードにならず、ファンのようにサッカーを見ることは難しい。特に、個人的に知っている選手がピッチにいる時は尚更だ。

インタビュアー:実際にアナリストになるにはどうしたらいいのですか?
Friedrich:例えば、勉強することなど、今は色々な方法がある。自分の場合は育成年代のコーチをしながら、スポーツ科学を勉強していた。ある時、大学の学科長で、RB Leipzigで試合分析を担当していた人から声をかけられた。そして、「対戦相手の分析に協力してくれないか」と言われた。まだ4部リーグに所属していた時の話だった。そして、プラウエンやラーテナウに赴いて、面倒くさがらずにどこかにカメラを設置しようとした。スタンドが高くないから、屋根に登って撮ったりもした。その後、NLZを経てからプロになり、実質的にクラブと共に成長することができた。

インタビュアー:5年、10年先を見据えた時、試合の分析はどのような方向に向かっていくのでしょうか?
Friedrich:この分野は驚くほど速く進化している。特に、データ解析の分野ではほぼ毎日新しい手段が追加されている。その可能性を認識し、開発を推進しているプロバイダーや企業は驚くほどたくさんある。これは既に自分たちの仕事に影響を及ぼしているし、この影響は今後も拡大して、仕事のプロセスを変えていくだろう。データの利点は非常に客観的であることにある。ただ、すぐに誤った解釈をしてしまうこともある。そこで、専門知識と経験を持つアナリストの出番となる。10年後、自分たちの仕事のプロセスは確実に変わっているだろう。

インタビュアー:トレーニング中も分析するのですか?
Friedrich:はい。トレーニング場に常設されている19台のカメラは動きを隅々まで捉えることができ、録画もしている。時には全自動で撮影が行われている。そのため、ピッチに出なくても、トレーニングをライブで確認することができる。トレーニングの分析は重要だ。なぜなら、ピッチではコーチが常に全ての選手に目を配り、即座にフィードバックを与えることができないからだ。トレーニング分析によって、選手がどのような動きをしたのか、あるトレーニングのやり方がなぜ効果的だったのか、あるいは悪かったのかを後から確認することができる。これがパフォーマンスの最適化に繋がっていく。