Borussia Mönchengladbach アシスタントコーチ René Marić〔インタビュー中編〕(2020/3/30)

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前編ではMarićが指導者の道を進むことになったきっかけやゲーム内での圧力の受け取り方についてを語った。
中編では主に彼の考えるトレーニングのあり方について語る。

インタビュアー:すなわち、プレー原則は同じでも打開策自体は人それぞれ異なっていても問題ないということですか?
René Marić:はい、その通りです。選手がピッチ上にいるとき、最善の打開策はゴールに向かって一直線でトップスピードで走ることです。もし、相手選手と対峙しているのであれば、ドリブルやパスを用いて突破を図るのことが最善でしょう。打開策の違いは常に選手個人と関係していて、もし私が相手を突破しろと言われても、ボールを失い相手のカウンター攻撃を誘発してしまう。一方でMessiが同じようなことを言われた場合、彼は突破しゴールまで決めてみせるでしょう。

インタビュアー:選手が何を学んでいるのかほとんど気づかないように、トレーニングはどの程度シンプルかつ実践的なものにするべきだと思いますか?
Marić:それぞれのセッションごとに目的は異なります。ただ単純に内容が異なるだけではなく、どこから取り組むのかも異なります。前の試合の振り返りから入るのか、次の試合の準備に取り掛かるのか。選手個人にフォーカスを置いて成長させるのか、流れやパターン、チーム哲学をピッチ上で発揮させられるようにしたいのか。そして、それらをどのように上手く融合させるのか、またチームとして成り立たせるのか。チームとしてプレーモデルを理解させたいのであれば、難しく複雑なトレーニングにすると意味がなくなってしまう。成長と成功。この2つがトレーニング設計の上での指針となるべきものです。複雑さのための複雑さはほとんど意味をなしません。私はそれを学びました。かつてDalma Markovicという名のユーゴスラビア人のコーチがいました。彼は40年の監督業でを視覚的に面白いポエムを利用して選手たちにプレー哲学を伝えていました。まるで童謡のように。20年たった今でも当時の選手たちはこのポエムを好み、心に刻んでいます。

インタビュアー:以前あなたは若手の育成に関して『あまりコーチングを露骨なものにするべきではなく、選手個人の実質的な育成は二の次』とおっしゃっていました。これにはどのような意味があるのですか?
Marić:指示されたプレーと本能的なプレーのバランスを見つける必要があると私は考えます。過度の本能的なプレーによって集中力の欠如や、選手個人が得意とするプレーエリアにとどまるようなことが起こり得るでしょう。あまり指示を与えすぎてしまうと選手の創造性や問題解決能力を損なうことになってしまいます。例えば練習メニューの中でタッチ数を制限することは最適でないと感じることもあります。タッチ数を制限して、ドリブルを排除してしまうと、ドリブルの活かし方を理解できなくないですか?

インタビュアー:では、選手の短所に対してはそこまで力を入れなくてもいいのでしょうか?
Marić:もし、ある過渡期のユースの選手の能力が平均的に高いのであれば、4部で通用する選手になれるかもしれません。ただ、もしその選手が突出した技術を1つでも持っているのであれば、それをブンデスリーガでも通用するレベルまで徹底的にトレーニングするべきです。もしその選手がドリブルで相手選手を置き去りにできるほどのスピードを有しているのであれば、トランジションの早さは彼の最大の特徴である必要はないです。要するに選手の長所と短所がどのように映っているかです。弱点を鍛えることは実際どれくらい重要なことなのでしょうか?簡単な例を挙げてみます。完璧で何でもできる選手がいるとします。でもその選手は10分間しかプレーすることができません。この場合彼に必要なのはサッカーの指導ではなく、より陸上の要素が強い指導です。言い方を換えると、彼のサッカーの技術を落とすことなくどのようにチームにフィットさせるか。なので、質問は選手の長所や短所に関してではなく、どの部分の指導に重きを置くと選手を最大限活かすことができるか、要するに効率性と有効性に関してのものであるべきです。

インタビュアー:(現在PSGで監督を務める) Thomas TuchelはMainz時代に『意図したスペースで自分たちの望む試合運びをするために、フルピッチでの11対11をしたことがない。このことによって選手たちから他の思考パターンをなくそうとした』と語っています。トレーニング(内容)とコーチングとではどちらが重要だと考えますか?
Marić:トレーニングとコーチングが連動していることが最良のシナリオです。コーチングはトレーニングを形成し、トレーニングをサポートするためにあります。そして、トレーニングはコーチングを行うための最適な場所です。ピッチサイズの違いは選手のアクションを複雑にしたり、単純にすると考えます。そのことにより選手がアクションを頻繁に行なったり、少なくしたり、あるいは全く行わなくなるようにします。

インタビュアー:しかし、そのようなアプローチの元のコーチングでは、与えられたピッチサイズの中で選手に可能な限り創造性を発揮させることが重要なのではないでしょうか?
Marić:はい、そうです。もしトレーニングメニューで選手の動きを既に制限しているのであれば、コーチはそれ以上の制限をかけるべきではありません。過剰な制限をかけてはいけません。トレーニングメニューに多くの制限をかけて、さらにコーチングも交えると逆効果になることが多いです。ただ、何も制限をかけてないメニューの最中に介入することは理にかなっています。