Borussia Mönchengladbach アシスタントコーチ René Marić〔インタビュー前編〕(2020/3/30)

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ドイツの戦術ウェブサイトのspielverlagerung.deの設立者の1人であるRené Marićは2016年よりRB SalzburgでMarco Roseと共に仕事を始め、3シーズンで4つのタイトルを獲得し、19-20シーズンからは、ブンデスリーガ1部のBorussia Mönchengladbachにて最年少の27歳でアシスタントコーチを務めている 。今回はSPOXのライターである、Jochen Tittmarさんが寄稿されたインタビュー記事の全訳を書いていく。

SPOX(ミュンヘンとウィーンに拠点を置くスポーツメディア)とGoalでのインタビューにおいてMarićはSPOXのメンバーだった時の話、プレー原則の重要性とその指導法、彼の経験に基づいた観点から見たサッカーについてを語った。

インタビュアー:Mr.Marić、あなたがブンデスリーガで最年少の27歳でアシスタントコーチを務めていること、戦術ウェブサイトのspielverlagerung.deを立ち上げた1人であることは周知の事実です。ただ、あまり知られていないことはそのメンバーたちがSPOXを通じて出会ったことです。
René Marić:すべてはSPOXから始まりました。現在もspielverlagerung.deのメンバーであるTim、Rieke、匿名で活動しているMBとHWがSPOXで記事を寄稿し始めました。今から約10年ほど前の話です。ある時は練習メニューについて、またある時はサッカーの歴史について、更には戦術的内容を書いたりと多岐にわたって寄稿していました。

インタビュアー:それからあなたはSPOXのメンバーとコミュニケーションをとるために活動するようになったということですか?
Marić:その通りです。その時点で私は既にオーストリアでユース世代のコーチをしていました。17歳で十字靭帯に重度の怪我を負った際にTSU HandenbergのSDをしていたGünter Russingerに声をかけてもらったことがきっかけです。当時からYouTubeを通して選手個々のビデオを見たり、トレーニングや戦術について調べたりしていました。その作業の中でSPOXを見つけました。SPOXのライターと連絡をとるためにはサイトに登録する必要がありました。最終的に taktikguru.netのTobias Escherと知り合ったことがspielverlagerung.deの設立に繋がりました。

インタビュアー:2016年にMarco Roseの下でRB Salzburg のアシスタントコーチに就任しました。1年後にはU19チームでUEFA Youth Leagueを制し、それに続く形で2018年と2019年にはトップチームでオーストリアリーグチャンピオンに輝きました。まず初めに、つまらない質問かもしれませんが、あなたにとって戦術とは何ですか?
Marić:私にとって戦術とはあらかじめ決められた筋道、状況、動作に基づいて立てられた試合毎のマッチプランのことではありません。私の考えでは、試合で起こる各事象をチームとしてどのような判断をもって打開しようとするか、そのチームでの決断事項の総体が戦術と考えます。例えば、ある選手がどこからどのように相手に寄せられているのか認識しながらも、同時にフリーでいる見方がどこにいるのかをも認識することができているか、というのは戦術であります。そしてその味方がどのようにフリーなポジションを見つけ出し、適当な場所、適当なタイミングでボールを受け取ろうとしているか、というのもまた戦術であります。
結局のところ戦術はとてもシンプルなものです。ピッチ上ではボールを保持するか、ボールを要求するか、スペースを作るか。たったそれだけのことしかないのです。戦術とはあらかじめ定めたチームの哲学に基づいてこれらの3つのアクションを繰り返し行い、両チームが状況を打開することの連続だと考えます。そして、選手の能力と戦術理解度の差がチームとしての結果の差に繋がるとみています。

インタビュアー:選手が状況打開のためにピッチ上で互いにコーチングをし合うことができるよう指導することは監督の役割だと思いますか?
Marić:それは監督のだけに課される役割ではなく、選手個人としても意識しなければいけないと考えています。選手がその能力を身に着けることはピッチ上でより適切な判断をすることに繋がるためです。ピッチ上で選手が見えている観点とは別の視点になるタッチラインからだと指示を与えることが難しい時もあります。(元プロボクサーの)Mike Tysonはかつてこのように言いました。’’皆、口元にパンチを受けるまでのプランは立てている。''と。そして時には試合中にパンチを実際に受けてしまうこともあります。ただその結果として、選手たちが自ら解決策を見出すことができる能力を身につければつけるほど、チームメイトはよりいい状態でプレーすることができるようになるでしょう。指示を与えすぎてばかりでいると選手たちのそのような能力を殺ぐことになってしまうでしょう。

インタビュアー:選手が元から持っているセンスや技術というのはここではどのような役割を果たすのですか?
Marić:それらも上手く正しく引き出さないといけないです。タッチライン際から見た打開策とピッチ上で見た打開策は間違いなく異なっているので、外からの指示を実際に実行に移せるかどうかは不確かです。だからこそ、外から打開策を提示するだけではいけなくて、効果的な打開策を選手が自ら考え見つけ出すことができるように選手たちに指導をしないといけません。意思決定が先に来て、実行に移すのはそれからです。監督やコーチはピッチをより広く見れていて、選手は監督やコーチと比較してピッチ上の状況をより理解しているという違いがあるからです。

インタビュアー:それはどのようにですか?
Marić:試合におけるアイデアについて話すとき、我々は常に選手間の連携とも絡めて話し合う。なぜなら、打開策というのは選手間の連携があって実行に繋がるからです。そして打開策というのはとても細かい部分にまで及びます。例えば、サイドバックが圧力をかけられるという事象をあげても、斜めから圧力をかけられる場合と正面から圧力をかけられる場合、また相手選手のプレースピードが異なるなど、それぞれのプレー状況は完全に異なります。このような似通った状況でも小さな違いが打開策を大きく変化させます。監督はスペースを活用するための打開策を提示することが多いです。ただ、選手にとっては異なります。味方から確実なフォローを受けることができていれば、1タッチでプレーができるし、受けていなければ2タッチでプレーします。例えタッチライン際から見えているスペースが類似しているものに見えていたとしても、実際は2つの異なる反応を示すことからも、選手は違いを感じています。もちろん監督やコーチは特に頻繁に起こり得る現象など選手の置かれている状況を想像した上で更なる指示を与えることはできますが、1つの現象に対して無数の打開策が存在することは多々ありますし、限られた時間でそのすべてをトレーディングすることはできません。

インタビュアー:このようなことからも、監督の定めるプレー哲学というものが選手が早く、或いは自然と打開策を見つけることに大きな役割を果たしているんですね?
Marić:その通りです。タッチライン際から見えている打開策は比較的明確なものではあるものの、それはあくまで空想上のものです。一方ピッチ上で選手たちは状況を頭の中で把握したうえで、どのような判断をしなければいけないのかを考えなければいけません。深い、斜めの、あるいは横切るプレーができるのか。ボールをレイオフする必要があるのか、あるいはクイックスイッチは可能なのか。6、7、8個もある打開策のうち最適なものを瞬時に判断する必要があります。圧力をかけられることには変わりませんが、サイドバックは他ポジションの選手と異なった形で圧力をかけられます。そしてそれはサイドバック特有の方向から受けるものです。仮に正面から圧力をかけられた場合、本能的にその方向へボールを運ぶことは避けます。これは他のポジションでも同様です。初めに述べた動作に基づいたサッカーにおける基本的な原則は不変ですが、自分のポジションや相手によって具体的なパターンを見つけることができます。

インタビュアー:圧力をかけられている、という感覚を改善するためにコーチングはどのような役割を果たしますか?
Marić:基本的にすべての選手は異なった形で圧力を感じています。例えばLionel  Messiは他の選手よりもプレッシャーを感じていないかもしれません。そのためにはできる限りプレッシャーを感じず、ボールを失わないようにトレーニングすることが必要です。なぜなら、ピッチ上で選択をするのは選手だからです。もしもう1タッチしたらボールを失うと感じたらパスを出すだろうし、その選択自体は間違ったものではないだろう。かつて人々は自チームのバック4がどのような距離感を保つべきなのかということを議論していた。ただ、対する相手選手が4m深く位置していたら、サイドバックは2m高い位置をとる必要があるかもしれません。角度や特定の距離、あるいは幾何学的な形を取り入れることによって、さらに科学的に決断することができるようになります。ただ私は個人的にこのようなアプローチは間違っていると考える。プレー原則に基づいた形で正しい打開策を見つけ出すことができるように選手を信頼するべきでしょう。