RB Salzburgから次に羽ばたくチームの核は誰?

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ドイツブンデスリーガに続く形で今日、6/2からリーグ戦が再開するオーストリアブンデスリーガ(以下ブンデスリーガ)。プレーオフ制を採用しているブンデスリーガで今季優勝を争うのが絶対的王者のRB Salzburgと対抗馬として食らいついているLinzer Athletik-Sport-Klub、通称LASK。

両チームとも既に敗退してしまったものの、今季出場した国際大会(SalzburgはCL→EL、LASKはELで決勝トーナメントに進出)で大きな印象を残し、そのハイレベルなサッカーで残されたリーグ戦のタイトルを争っている。LASKはレギュラーシーズン終了時で首位だったものの、中断期間中に規律違反をしてしまい、勝ち点12減。それによりSalzburgに首位を引き渡してしまったが、再開前での勝ち点差はわずかに3。2度の直接対決を残していることからも、優勝の行方はまだ全く分からない状況となっている。

Salzburgに優秀な若手選手が多いことはサッカーを見ている人は良く知っているだろうが、Salzburgの魅力はそれだけにはとどまらない。

ブンデスリーガUEFAに加盟している国で秋春制を採用しているリーグの中での1試合あたりの得点が3.5と1番多い。この得点の多さは国内だけにとどまらず、国際大会でもその得点力がいかんなく発揮されていて、CLでは3.2得点を記録している。

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近年のオーストリアのチームもヨーロッパのコンペティションでの躍進はアウトサイダーとしての番狂わせとしてみる人の関心を惹いているだけではなく、プレーしているサッカーの質が向上していることも意味する。多くのスカウトはブンデスリーガを原石の巣窟とみていた。

Salzburgはその主たる例でSadio ManéやErling Hålandらの若いタレントを多く輩出している。Taxham(ザルツブルクの一地域)にあるトレーニングセンターはヨーロッパでも有数の近代的な施設で、ブンデスリーガやヨーロッパのコンペティションで戦う選手を輩出するためのクラブの哲学もはっきりしていることから、Salzburgは若いタレントを育てるためにはうってつけのクラブであることがわかる。

 今季のタイトルレース自体はSalzburgとLASK間で行ったり来たりと面白い展開となっているものの、過去のピッチ上でのパフォーマンスレベルや財政的な面も含めてSalzburgが一歩先に進んでいることは間違いなく、過去6季に渡ってトロフィーがモーツァルトの都市、ザルツブルクにあることからもわかる。

共通したプレースタイル

今や代名詞とも言われているハイプレスをベースとするスタイル、チーム哲学をかつてSDを務めたRalf Rangnickの下で築き上げてきたSalzburg。このスタイルでプレーするSalzburgの選手たちは似たようなハイプレススタイルを用いるヨーロッパのトップクラブのスタイルにも精通していることを意味する。だからこそ、Salzburgの選手たちは獲得候補としてより魅力的に見える。

昨年10月に合計7点が記録されたAnfieldでのLiverpoolとの試合後にも敵指揮官であるJürgen KloppがSalzburgの選手たちを褒め称えた。その後、冬の移籍市場でLiverpoolに移籍した南野拓実に加えSadio ManéとNaby KeitaもかつてSalzburgでプレーし、ステップアップを果たした選手たちだ。

ただ、Salzburgのタレントの恩恵を受けているのはチャンピオンズリーグ王者だけではない。同じレッドブルグループをオーナーとしているドイツのRB Leipzigも現在リーグで3位(6/1現在)、過去Salzburgに所属していた選手はDayot Upamecano、Marcel Sabitzer、Konrad Laimer、Amadou Haidara、Hannes Wolf、Kevin Kampl、Peter Gulásciの7人とSalzburg在籍経験のある選手たちが大きく結果に貢献している。

Stats Performが作成した上述の3チームのプレースタイルを比較した以下のフレームワーク(各項目の詳細)がこの3チームの類似性を物語る。

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3チームとも長時間のボール保持を好まず、2秒以内に次の選手へとボールを渡すあるいはハイスピードを保ちドリブル突破する形のいわゆる速いテンポでのポゼッションを好んでいる。一方でどのチームもロングパスによる前進は好んでいない。これはフレームワーク内のDirect Playの項目の数値がリーグ平均値を大きく下回っていることからもわかる。

今冬にSalzburgからErling Hålandを獲得したDortmundもまた似たようなプレースタイルのチームである。若きノルウェー代表は約1年間在籍しただけにも関わらずオーストリアで多くの記録を塗り替えたことにより、リーグ内でも際立った存在となった。

↑ Hålandは64分に一度のペースでゴールネットを揺らしており、74/75シーズン以降に10試合以上出場し10ゴール以上得点した選手の中では最速のペースで得点を量産した。

Håland移籍後のSalzburg

Hålandを除いたとき、Salzburgで1番チームに影響を及ぼしたフォワードは誰か。Stats Performによる効果的なポゼッションというフレームワークによると韓国代表のHee-Chan Hwang(ファンヒチャン)は際立ったデータを残している。このフレームワークは各選手のボールポゼッションにおいて及ぼされた好悪両方の影響を数値化したものである。

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Hwangはオープンスペースを見つける能力が高く、そのスペースを決定的なタイミングとなり得る瞬間に突く。今季ここまでリーグ全体で6位にランクインする16ゴールに直接関与(得点orアシスト)していて、そのうちの9ゴールはHwang自身がボールを受け取った位置から5メートル以上前進させてゴールに結びつけたものだ。ただこの韓国人ストライカーは万能な選手で、むやみやたらにボールを運ぶわけではなく、適切な判断で彼のストロングポイントを発揮する。そんなHwangはリーグ戦だけではなくCLでも3ゴール3アシストと結果を残している。

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1月のHålandの移籍に続く形で移籍の噂が絶えないのがDominik Szoboszlaiだ。19歳のハンガリー代表アタッカーは今季既に、昨季の927分を大幅に上回る1791分の出場時間を記録しており、レギュラーの座を掴んでいる。特にボール保持時にハイスピードを保ちながら前進する力が向上し、大きな印象を与えている。

 Szoboszlaiの全体の走行距離の9.6%はいわゆるハイスピードで記録されており、これはPatson Dakaに次いでチームで2番目の記録である。ただ、速く前進できるだけではなく、Szoboszlaiはパス成功率83%と高精度のパスも兼ね備えている。さらに、ファイナルサードでも74.1%のパス成功率を誇り、多くのチャンスを創り出している。このデータはチームメイトのほとんどを上回っているだけではなくリーグ内でも最も優れた選手の1人であることも証明している。(下図参照)

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またSzoboszlaiの特徴としてはtake-onの多さがあげられている。take-onとはボール保持時に対峙する選手に打ち勝つ機会のことを意味し、Szoboszlaiはこのtake-onに22分に1回のペースで関わっている。そのうちの10回は相手のペナルティーエリア内で起きているもののすべて失敗に終わっている。この点からエリア内での成功率を上げることは彼の課題の1つであることがわかるが、エリア内に侵入することで相手のディフェンスを混乱に陥らせる可能性を作り出していることもわかる。(下図参照)

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Szoboszlaiだけが今季ブレイクを果たしたわけではない。Patson Dakaザンビア人として初めてCLで得点を挙げた(GL第5節Genk戦)選手になった。21歳のストライカーはブンデスリーガでは17得点をあげ、そのうち16ゴールは流れの中から生まれている。

Dakaのストロングポイントの1つとして挙げられているのが良いシュートポジションを見つける能力だ。今季ブンデスリーガでDakaは90分あたり9回も相手のペナルティーエリア内でボールを受ける動き出しをしている。さらに彼のxG、ゴール期待値は30本以上シュートを放った選手の中では一番高い0.26だった。

ゴール期待値とは、「あるシュートチャンスが得点に結びつく確率」を0~1の範囲で表した指標のこと(Football LABより)

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これまであげたHwang、Szoboszlai、Dakaの3選手がシーズンの再開後も中断前までの好パフォーマンスを維持することができれば、5大リーグからの関心はさらに強まるだろう。ただ、Salzburgの優れた若手発掘能力と選手育成力のおかげもあって、仮に彼らのような主力選手がステップアップを果たしても、クラブは若くて野心のある次世代の選手を登用することで競争力を維持することができるだろう。

例えばKarim Adeyemi、Maurits Kjærgaard、Benjamin ŠeškoやChukwubuike ''Junior'' Adamu。Salzburgの新たな翼となりえる選手たちは虎視眈々とブンデスリーガでのデビューを狙って日々トレーニングを積んでいる。