RB Leipzig チームドクター Dr. Percy Marshall〔インタビュー〕(2022/12/22)

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【原文:ドイツ語】

インタビュアー:Mr. Marshall、あなたの仕事内容を簡単に教えてください。
Percy Marshall:自分はRB Leipzigのチームドクターとして5年目を迎えている。自分は当時、ブンデスリーガ初の常任チームドクターとしてHSVからやってきた。もちろん、そのおかげで、スポーツ医学という学際的な分野全体に、より集中的に取り組むことができるようになった。怪我の急性期治療、リハビリのサポート、そして予防、つまり怪我の回避やポテンシャルの最適な活用などを行なっている。これにはスポーツ心理学者による心理学はもちろん、栄養学やアスリートサポートの分野全般も含まれる。

インタビュアー:あなたの分野でますます重要視されてきていることの1つが「睡眠」です。プロのアスリートにとって、それはどのくらい重要なのでしょうか?
Marshall:極めて重要なものだ。一般的に十分な睡眠がとれないと、うまく回復できないと言われている。しかし、そうしたプロセスをプロの日常生活にうまく組み込み、その重要性を伝えることはとてつもなく難しいことだ。自分たちは常々、「睡眠」というテーマをもっと集中的にプロセスに組み込んでいこうと話してきた。ただ、それが可能になったのは今季からだ。全ての変化がそうであるように、これには適切なタイミングが必要なんだ。

インタビュアー:プロサッカー選手にとって、完璧な睡眠とはどのようなものでしょうか?
Marshall:現在、2つの意見に分かれている。「選手は最低でも1回は十分な睡眠をとるべき」という意見がある。また、「睡眠時間を90分単位で区切って、1日に分散させれば良い」という意見もある。RB Leipzigでは後者のような考え方はしていない。自分たちは一相性または二相性の睡眠パターン、つまり、夜間に長い睡眠時間をとり、せいぜい昼間にもう1回昼寝をすることを推奨している。選手の睡眠時間は7~8時間で、できるだけ規則正しく、均等に睡眠をとることができるようにしている。だから、いつも同じような時間に寝て、同じような時間に起きているはずだ。

インタビュアー:しかし、試合数が多く、キックオフの時間もまちまちで、移動も多いので、なかなか難しいですね。
Marshall:まさにそれが問題となっている。特に、ミッドウィークの試合は夜に行われることが多く、健康的な睡眠をとることがほぼ不可能なため、選手たちは大きな可能性を奪われてしまう。もちろん、選手たちに「夜11時に寝て、朝8時に起きて」とは言えない。それは不可能に近い。それでも、それに少しでも近づけることが自分たちの目標だ。CLの試合では、いかにしていつもより寝る時間を遅くしないるか、あるいは、いかにして普段の生活リズムに早く戻すか、ということが問われる。プロサッカー選手は試合という大きなストレスの中で、完璧な睡眠をとることはできない。もし、睡眠時間を増やしたいのであれば、夜と昼の2回寝ることを推奨する。ただ、選手は一人ひとり違うわけだから、厳格に同じパターンに押し込めようとすることは間違っている。例えば、12時まで問題なく寝ることができ、12時15分にトレーニングに来る選手が2人いる。それが彼らの個人的な睡眠リズムで、彼らはそれでとてもうまくやっている。

インタビュアー:既に述べられたように、ミッドウィークの試合はとても難しいものです。飛行機やバスの中で寝るのはオススメなんでしょうか?
Marshall:それができる人はごく僅かな人だけだ。ほとんどの選手が試合前に何らかの形でカフェインを摂取し、キックオフに備えている。これは通常50~150㎎のカフェインで、通常のエスプレッソ1杯分に相当する。しかし、カフェインはチューインガムや錠剤などの形で摂取することもできる。カフェインやホルモンの影響で、試合後も選手たちはまだ刺激が強く、そのまま眠れることはほとんどない。それどころか、23時に終了のホイッスルが吹かれると、翌朝の5時まで起きている選手もいる。これは問題だ。生活リズムが完全に狂ってしまう。

インタビュアー:そのような場合、監督は「次のトレーニングは午後からだ」と選手たちに言うのか、それとも完全に睡眠時間を削るのでしょうか?
Marshall:ここでも2つの意見がある。自分たちは通常の生活リズムに従うことが多い。この場合、選手たちは睡眠時間を削ってでも午前中にトレーニングを行う。ただ、この時は回復メニューをこなすだけだ。むしろ、ちょっとした運動で新陳代謝を促し、新鮮な空気を吸うことが大切だ。その後に昼寝をすることで、通常のリズムに戻すことができる。選手たちが朝の5時から昼過ぎの14時まで寝ると、さらにその次の日の生活に支障をきたす。そのため、自分たちは別の方法をとっている。

インタビュアー:選手と接する中で、睡眠の問題は具体的にどこに焦点を当てているのでしょうか?
Marshall:どちらかというと、選手一人ひとりにアドバイスするのはその周辺要素についてだ。夜遅くまでプレイステーションで遊んでいないか?夜中に携帯電話をどれくらい使っているか?寝室は何度なのか?最後の食事はいつで、その時は何を食べたのか?これらは全てが睡眠に影響を与えるものだ。しかし、それは常に、選手たちがアドバイスを受け入れるかどうかに依存する。

インタビュアー:頼りにしているツールはどのようなものでしょうか?
Marshall:例えば、スリープトラッカーを自主的に導入している。これは指輪のように指にはめるもので、睡眠パターンを表示することができる。そのデータをもとに、目覚めの頻度、落ち着きのなさ、眠りの深さ、浅さなどを把握することができる。これは全てが信頼関係に基づいて行われており、一人だけがこのデータを把握することができる。もし、悪い方向に進んでいる傾向が見られたら、さらに詳しく調べて、個別にアドバイスをする。例えば、寝る前にお酒を飲みすぎて、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりすることはよくあることだが、これは比較的簡単に改善することができる。また、選手たちが自分の体調や寝付き、睡眠時間などを入力するアプリも自由に使うことができる。もちろん、これは主観的な感覚ではあるが、他のデータをよりよく分類するのに役立つ。

インタビュアー:よく言われている「寝る前の飲酒や食事」などは一般常識ではないのですか?
Marshall:彼らの多くは様々な社会的背景を持つ若いアスリートであり、これまで、程度の差こそあれ、場合によっては全く気にすることなく、睡眠というテーマに向き合ってきた。自分たちはこのようなことを決して忘れてはいけない。彼らは、いつもどうにかうまくいっていることをやっているだけでしかない。例外はあるものの、ここにいる選手たちにとっては全く新しいレベルのストレスがある。出身地や前のクラブでトップパフォーマーであったかどうかは関係ない。ChelseaのTimo Wernerを除けば、ほとんどの選手がこれほど多くの試合をプレーをし、これほど集中的にトレーニングをしたことがない。例えば、Joško Gvardiolはその能力とポテンシャルにもかかわらず、以前は1シーズンの試合数が20~30試合だった。今は60~70試合だ。Joškoはこうしたテーマにもしっかりと耳を貸すものの、それでもトレーニングは必要だ。選手たち一人ひとりにアプローチをしているし、だからこそ自分たちのスタッフはこれほどの大所帯になっている。

インタビュアー:睡眠に関して、学んだり、トレーニングをすることはできるのですか?
Marshall:睡眠との付き合い方、睡眠に影響を与える要因については学ぶことができる。そうすることで、眠りやすくなることにすぐに気付くはずだ。現代の問題のひとつは、自分たちが自分の身体の声に耳を傾けることを忘れてしまっていることだ。多くの人は正常な睡眠が何であるかさえ知らない。アスリートでさえも、その知識は自明ではない。だからこそ、それをしっかりと理解することが大切なことだ。

インタビュアー:眠りすぎても良いのですか?
Marshall:眠り過ぎは良くない。ただ、ベッドに横になりすぎることはあっても良い。Willi Orbánは毎日22時に寝て、朝の6~8時の間に目覚ましをかけずに、目が覚めたタイミングで起きるとインタビューで答えている。そこがポイントだ。目が覚めたら、すぐに起き上がる。1時間半も2時間も右往左往しない。コーヒーを飲んで、3時間ソファに座ることもしない。このようなことをしていると、リズムが狂ってしまう。疲れている状態で起きても、起きて外に出て、昼からまた1時間横になる方が理にかなっている。そうすると、21~22時にかけてまた疲れが出てきて、正常なリズムを保つことができる。

インタビュアー:選手たちがパーティに出かけるとしたら、生活リズムは悪くなるんでしょうか?
Marshall:最初は全然問題ない。睡眠に関しては栄養と同じで、身体全体が抵抗しているのに無理矢理やっても意味がない。身体的にも精神的にも、いかに自分のバッテリーを満タンにすることができるのかを考える。そのやり方は人それぞれだ。ただ、自分のことをよく知っている選手には「終わりが見えなくなってキリがなくなるから、シーズン中はやらないほうが良いし、やめておこう。」と言う選手もいる。でも、若い選手が頭や心のために必要だと思うのなら、それ自体は悪いことではない。もちろん、度を超すことなく範囲内に抑えれるのであれば、自分は反対するつもりはない。でも、それは若い選手に限らずみんな同じだ。時々そういうことを必要とする人に対しては、翌日に少し負荷を減らさないといけないことを知っている。絶望感を感じるよりも、その方が良い。

インタビュアー:試合前日の夜でなければ問題ないということですね?
Marshall:その通りだ。また、負けた日の夜や一晩おきでなければ問題ない。仮に、選手が毎週そのようなことが必要だと言ってきたら、別の解決策を考えなければいけないかもしれない。でも、月に1回なら全く問題ない。

インタビュアー:ということは、実際にそのようなことにも配慮してトレーニングをマネジメントしているのですか?
Marshall:知っていれば、そうしている。ただ、もちろん全員がそのことを言うわけではない。人によっては顔に出るから分かることもあるけどね(笑)